渋谷区ふれあい植物センターとは

2023年7月にリニューアルした渋谷区ふれあい植物センター2005年、渋谷清掃工場の余熱を利用する施設として開園しました。「日本一小さな植物園」というコンセプトのもと、ヒスイカズラや竜血樹などの珍しい植物を含む多様な熱帯植物を、限られた敷地の中で植栽展示してきた施設です。
2023年リニューアルで掲げられた新コンセプト

しかし、開園から約20年が経過し、施設の老朽化が課題となりました。これを契機に行われたリニューアルでは、「育てて食べる」を新たなテーマを提示。植物展示にとどまらず、農や食文化を含めた発信拠点へと方向性を転換しています。
本記事では、リニューアル後の渋谷区ふれあい植物センターを実際に訪れ、その変化と現在の姿を記録します。
リニューアル後の渋谷区ふれあい植物センターを訪ねて
2023年リニューアルで変わった展示の方向性

以前の植栽のイメージがあったために、ずいぶん植物が少なくなった印象がありました。しかも、以前あった熱帯植物はなく、有用植物がメインです。
「育てて食べる」を軸にした新しい植物園像

リニューアル前の渋谷区ふれあい植物センターは、植物園としての役割に重きが置かれていました。一方で、リニューアル後は、植物園というよりも、植物を「育て、食べ、考える」ための施設へと役割を変えたように感じられます。それが、展示植物の変化に表れています。
「農と食の地域拠点」の発信の場として
リニューアル後の渋谷区ふれあい植物センターでは、「農と食」をテーマにした知の発信空間として、ライブラリーと展示ギャラリーが重要な役割を担っていました。

ライブラリー|読むことで植物とつながる空間

館内に設けられたライブラリーには、農業、園芸、食文化、環境、植物学に関する書籍や絵本、写真集などが並び、来館者が自由に手に取って閲覧できるようになっています。
展示ギャラリー|人と植物の関係を考える場


ギャラリー空間では、講演会やトークイベント、上映会、マルシェなどが開催。ほか、企画展示を通じて「育てる」「食べる」「循環させる」といったテーマが提示されています。
温室カフェとしての渋谷区ふれあい植物センター

植物展示と一体化したカフェ空間
席からは温室の緑を見下ろし、眺めることができます。

リニューアル後にできたカフェは、単に付随する施設や休憩所ではなく、温室体験につながる空間として設計されていました。
温室内にカフェがあるために、温室体験の延長として飲食を楽しむことができます。
「長く滞在する」ことを前提にした設計

私が訪れた際にも賑わっていたカフェ。カフェがあることで、展示を見終えて終わりではなく、展示のある空間で過ごすことになります。それによって、施設滞在時間が自ずと伸びます。
これは、センターが目指す
「訪問型施設」から「滞在型施設」への転換を象徴しているように感じられました。
食を通じて植物とつながる導線
有機野菜やハーブを使った料理、ドリンクなどのメニューは、「育てて食べる」という新しいコンセプトと連動しています。
カフェは、展示で見た植物を「食べて」体験する役割を果たし、温室→カフェという動線が自然に結びついています。
ここでは、植物は「珍しい存在」ではなく、
日常の食と連続するものとして体験できるようになっています。





植物園から植物のあるカフェへ
リニューアル前と比較すると、
かつての渋谷区ふれあい植物センターが「植物を見て学ぶ場所」だったとすれば、
現在は「植物の中で過ごす場所」に変化したように感じました。
その変化を最もわかりやすく表しているのが温室カフェです。
植物展示を主目的に訪れる人だけでなく、
食事や休憩をきっかけに植物に触れる人もターゲットにする方向転換は、
都市型施設としての現実的な選択かと思いました。
リニューアル前の渋谷区ふれあい植物センターと展示協力の記録

熱帯植物を中心とした従来の展示構成

私が訪れたのはちょうどリニューアル前になる2020年。ちょうどコロナ禍に入るタイミングでした。企画展協力のために訪問し、温室内の植物の多様さ、密度の濃さに感嘆しました。

リニューアル前の展示協力について
企画展示として関わった食虫植物・昆虫食・ウツボカズラ飯展

センターからのご依頼を受け、食虫植物・昆虫食・ウツボカズラ飯展の監修協力をしました。写真やウツボカズラ飯の作り方を映像制作してご提供しました。食虫植物・昆虫食・ウツボカズラ飯をワンテーマの括りにした攻めた企画。企画展のタイトルは「虫を食べる草と人間が食べる虫と虫を食べる草で作る飯」。素敵なタイトル名でした。
2020年当時の食虫植物の展示

食虫植物の植栽展示の方は私はタッチしていませんが、当時の展示の撮影をしていますのでご紹介します。

ビオトープ風の食虫植物の植栽展示がありました。


当時のセンターが持っていた自由度と可能性

温室の隅々にいきわたる植物への愛情と工夫。訪れた植物好きが笑顔になってしまうような空間がそこにはありました。「日本一小さな植物園」であり、日本一濃い植物園だったのではと思います。
リニューアル前後を比較して感じたこと
展示密度と「メッセージ」の位置づけの変化
リニューアル前の渋谷区ふれあい植物センターは、限られた空間の中に多種多様な熱帯植物を高密度で植栽し、「植物そのものの存在感」を前面に押し出していました。
通路を歩けば葉に触れそうになり、視線をどこに巡らせても重なり合う緑がある。温室全体がひとつの生態系として在るような感覚がありました。
一方、リニューアル後の展示は、明らかに植物の量が抑えられています。
有用植物や食に関わる植物を軸に、メッセージに沿うように構成しています。
これは、施設の役割が変化した結果なのでしょう。
植物園から「農と食の拠点」への転換
リニューアル後の施設全体を通して強く感じたのは、
ここが「植物園」という枠組みではなくなっている、という点です。
温室、カフェ、ライブラリー、ギャラリーが同列に配置され、
植物を主役とした展示施設というよりも、
「農と食」を入口に、人と植物の関係を考える都市型の拠点として再定義されたのではと思います。
この方向転換は、立地、規模、行政施設としての性格、そして運営の持続性を考えれば、
極めて現実的な判断だったとも言えるでしょう。
植物園単体としての専門性よりも、来訪者の滞在性や関与の広がりが重視された結果が、現在の姿なのだと感じました。
加温設備と温室体験の質の変化
体感として最も大きな変化は、温室環境そのものにありました。
リニューアル前は、温度や湿度を含めて熱帯環境の再現に力点が置かれ、
「都市の中で非日常空間に入り込む感覚」が強くありました。
リニューアル後の温室は、
あくまで都市生活の延長線上にある快適な空間として設計されている印象です。
温室に求められている役割そのものが変わった結果として起こった変化だと感じました。
小さな植物園の変化とは
リニューアル前の渋谷区ふれあい植物センターは、
「日本一小さな植物園」というコンセプトで、
展示の自由度や遊び心、挑戦的な企画を積極的に行っているように見受けました。
私自身が企画展協力として関わった経験からも、
当時のセンターには、実験精神が確かにあったと感じています。
一方で、リニューアル後は、
より多くの人が関われる公共的な拠点へと変化しています。
かつては、植物に強い関心を持つ人のための場所であり、
現在は、地域の人が植物を入口に、暮らしや食へと関心を広げる場所へ。
この変化をどう受け取るかは、訪れる人の立場によって異なるでしょう。
それが、リニューアル後の渋谷区ふれあい植物センターを歩いて感じた、率直な印象です。
冬に訪れるメリットと注意点
寒い季節でも快適に植物を楽しめる
屋内施設を中心とした施設のため、寒い冬の時期でも快適に過ごすことができます。
混雑する時間帯
お昼時が混んでいるので、コアタイムを外した方が良さそうです。
アクセス・基本情報
渋谷駅からの行き方
住所:〒150-0011 東京都渋谷区東2丁目25-37
地下鉄渋谷駅出入口C1から徒歩10分くらい
開館時間・入館料・最新情報の確認先
開園時間 10:00〜21:00(入園は20:30まで)
休園日 月曜日
入館料:100円 未就学児:無料
公式サイト情報
まとめ|冬の温室カフェから、かつての植物園を思う
かつての渋谷区ふれあい植物センターを知っているだけに、その面影がふと横切り、失われたものを寂しく思う気持ちは、正直にあります。
植物園は研究・教育施設としての役割をも担うものですが、リニューアル後の同センターも、テーマを変えつつもその役割自体は果たしています。
しかし、なぜでしょう。
その役割やメッセージが、どこか後付けのように感じられる瞬間があります。
老朽化を契機にリニューアル。その際に大きなコンセプトチェンジが行われました。しかし、利用者側の要請として、この方向性への変換を求める声があったのかというと判然としません。むしろ維持コストや運営などの内的事情が先にあり、変化を必要としていた。そこに、このコンセプトが選択されたというように見受けられます。(あくまで外から見た推測に過ぎません)
もし仮にそうだとするならば、公的施設が掲げるコンセプトと、運営の収支や持続性の関係性について、われわれ利用者も考える必要があるのではと思いました。出来上がったものをただ受容するのではなく、一当事者として。
冬の温室カフェから眺める緑に、喪われた植物の影を重ね、ふとそう思いました。



コメント