今旅最大の目的、木登りヴィーチを見に行く


いよいよこの旅の主目的。野生のウツボカズラNepenthes veitchiiの群落地に行きます。
行きにNepenthes hirsuta, Nepenthes reinwardtiana, Nepenthes stenophylla,は見ることができました。しかし、まだヴィーチを見ていません。



マリアウベイスンに自生する8種類のウツボカズラ
Hans P. Hazebroek, MALIAU BASIN SABAH’S LOST WORLD (Natural History Publications)によるとマリアウベイスンに8種類(内、1種類は交雑種)のウツボカズラが自生することが確認されています。
- Nepenthes mirabilis
- Nepenthes hirsuta
- Nepenthes lowii
- Nepenthes reinwardtiana
- Nepenthes stenophylla
- Nepenthes tentaculata
- Nepenthes veitchii
- Nepenthes stenophylla × veitchii
その内のNepenthes veitchiiが大量に生えている場所が、ネペンテスキャンプから30分程歩いた場所にあるといいます。
ネペンテスキャンプ→Nepenthes veitchii群落地へ

朝食後、行きたい場所によって二手に分かれることになりました。ウツボカズラ群落地グループと滝観察グループです。ウツボカズラ班は橋場さんとゲイリーさん、滝班は安間先生が同行しました。

もちろんウツボカズラ班に参加。ランチボックスとおやつ(お菓子とバナナ)をいただいて、目的地へと向かいました。
吊り橋を渡り、森の入り口へ

再びネペンテスキャンプから急斜面を下り、森の入り口の不安定な吊り橋を渡ります。
吊り橋を渡るのに戸惑っていたところ、安間先生に「ここから落ちて死んだ人はいないから大丈夫だよ」と励まされました。
Nepenthes veitchii(ヴィーチ)とはどんなウツボカズラか

食虫植物のウツボカズラの中でも人気が高いNepenthes veitchii(ヴィーチ)。
名前の由来
イギリスの園芸家ジェームズ・ヴィーチ。ウツボカズラを園芸植物としてヨーロッパに導入した先駆者であり、ヴィーチ商会の経営者の名前を称して付けられています。
ヴィーチの自生地
ボルネオの北西部、特にサバ州、サラワク州、カリマンタンに分布。
主な自生地は、カリマンタンのBukit Batu(ブキバトゥ)、サバ州グヌン・ムル国立公園のアピ山、サラワク州クラビット高原のバリオ、そしてマリアウベイスンです。
標高0〜1600mの主に低地混交フタバガキ林の中の泥炭湿地の苔が広がるエリアで見られます。
かつて食虫植物の専門業者の大谷園芸さんから、マリアウベイスンの木登りビーチの写真を見せてもらったことがあります。
「いいよねぇ、木登りヴィーチ」
写真が載っていた本はC.Clarkeの『Nepenthes of Borneo, Nat. Hist. publ., Kota Kinabalu』だったかもしれません。その場所に自分が来ようとは思いもしませんでした。
※本書は絶版になっています。
見渡す限りのウツボカズラの群落で酔う

なだらかな斜面を登っていくと、行きの登山道(Nepenthes reinwardtianaを)とは森の様子が変わってきました。
アガチスキャンプからの道のりは足元は腐葉土が厚く積もり、背の高い木が鬱蒼と追い被さり、全体的に薄暗い。対して、徐々に林床が明るくなってきました。木は頼りなげに細く、日差しがよく入りこみます。木の根元に苔が密生しているのが見られます。そしてそれは突如現れました。木の幹に巻きついた捕虫袋。遠目には果実が鈴なりに実っているような。
まさしく木登りビーチです。

近づき観察すると、そこはもうヴィーチの森。隣もその隣の木にもヴィーチが絡みつき、四方をヴィーチに取り囲まれていました。
あっちにもヴィーチ、こっちにもヴィーチです。

バリエーションが豊かで、どの捕虫袋も美しく、見飽きることがありません。

ウツボカズラに酔ってしまいそうでした。







ここでは、ヴィーチの他にステノフィラ、テンタキュラタが見られ、ヴィーチの近くにステノフィラが生えていることが多く、両者の交雑種も多く見られました。どれも微妙に交雑していてグラデーションの様相を呈しているようにも思います。





蘭、ビカクシダ、アヤシゲなキノコを発見


一帯が似た景色で奥深く入れば容易に迷子になりそうです。
ロストワールドでロストするのは避けたいところ。
前日、別のグループが野鳥を追って奥に入り過ぎ、朝から晩まで迷子になっていた話を聞きました。

ヴィーチだけではなく、他の珍しい植物も見ることができました。不明の蘭、ビカクシダなど。それにアヤシゲなキノコも。







ウツボカズラの消化液
夢だった野生のウツボカズラの消化液も試飲しました。その時の詳しい記事はこちらです。
蒸し暑さとヒル。それでも帰りたくない
この群落地、湿度と温度が高く、居るだけで頭のてっぺんから足の先まで汗が噴き出し、全身がずぶ濡れになります。暑くて蒸す。硅砂の照り返しもきつい。ヒルも多く、いつやられてもおかしくない場所。


ウツボカズラがなければ長時間居たい場所ではないでしょう。
悪環境でありながらも、ウツボカズラのバリエーションが豊かで、見飽きることがなく、いつまでも居たい場所でした。ウツボカズラはこんな場所が好きなんだと勉強にもなります。もし可能であれば、ネペンテスキャンプにしばらく滞在し、定点観測したいです。
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