【食虫植物】マリアウベイスン探訪記①旅のはじまり

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野生のウツボカズラを見に行きませんか

2018年の話です。

当時、著書『官能植物』の長期にわたる執筆を終えたばかりで精も根も尽きていた頃。植物関係でお世話になっている方から「野生のウツボカズラを見に行きませんか」とお誘いがありました。

ウツボカズラは葉の先端が袋状になり、虫を捕らえる食虫植物。東南アジアを中心に分布し、ボルネオ島に多くの種類が生えています。

よくよく話を聞くと「キナバル山はありきたりだから、マリアウベイスンに行きましょう」と。

マリアウベイスン。ボルネオ島最後の秘境と呼ばれる、隔絶された地。

そういえば、これまで食虫植物を愛好していると言いながら、自生地を見るために国外に出向いたことがないことに気づきました。

2005年にはじめてハエトリソウを見て、この世にこんなに面白い植物があったなんてと衝撃を受け、食虫植物に心を奪われました。以来ハエトリソウを皮切りに、ウツボカズラ、モウセンゴケ、ムシトリスミレと虫を食べる植物の魅力にはまっていきました。

食虫植物と一言でいっても、およそ600種類もあります。多くの属、科にまたがり、形は様々ですが、どんな種類の食虫植物であっても共通して心を惹きつける不思議な形をしていました。生態を知ればなお面白く、魅力的な形はその生態ゆえの形だとわかると、いっそう興味が深まっていきました。

食虫植物への愛情は言葉となって、本や小説、絵として結実しました。

ところが、『官能植物』を執筆し終えた時に、急速に食虫植物への興味が薄れているのを感じました。思いの丈を表現し尽くしたからかと思うのですが、はっきりとした理由はいまだにわかりません。

そんな折にお誘いいただいた野生のウツボカズラを観察する旅。

目的地のマリアウベイスンの情報をネットで調べたところ、ボルネオ島のマレーシア領サバ州に位置し、自生地へ行くのには車で入ることはできず、急勾配の外輪山を片道徒歩5、6時間かけて越えなければ辿り着けません。そして山小屋泊という本格的登山です。登山経験もない自分に果たして乗り越えられるだろうかと臆しました。登山の行程には長い梯子場もあると書かれています。高所恐怖症の自分にはそれもまた鬼門。

弱気になっていたのを近場の山で予行練習をしたり、励ましていただいたりして、こんな貴重な機会は滅多にないので行くべきだろうと思えるほどになりました。前置きが長くなりましたが、これが旅のはじまりです。

はじめての海外登山(マレーシア):旅の準備編

今回の旅は自然の旅事務所代表の橋場みき子さんがツアーリーダーを務め、動物生態学者の安間繁樹先生が講師されるネイチャーツアーに参加する形でした。

旅行前に、橋場さんから資料と旅の行程表と持ち物参考リストを自宅に送られてきました。リストには以下の持ち物が並んでいました。そのどれもが見慣れないものばかり。

旅の持ち物リスト

  • ザック
  • ヘッドライト
  • ザックカバー
  • 行動食
  • トレッキングシューズ
  • スパッツ
  • シュラフ
  • シュラフカバー
  • 登山用グローブ
  • 水筒
  • 双眼鏡
  • 防寒具
  • 雨具
  • サンダル
  • ポーターに預ける袋
  • 目覚まし時計
  • 虫除け薬
  • 日焼け止め

赤字が必須

登山をする方にはお馴染みのものと思いますが、持っていないものばかりでした。山登りといえば、日本の稀少なムシトリスミレの仲間であるコウシンソウを見に雲竜渓谷に行ったくらい。その時も今にして思えば知識がないために、しっかりと装備は整えていなかったのでした。

教えていただきながら装備を揃えました。持ち物は最後まで迷いました。好日山荘に連日通い、使う場面を想像しながら揃えていくのですが、想定するための経験が圧倒的に不足していてわかりません。想像力で補ったり、調べたりで、普段使わない部分の頭を使っているようで、消耗が激しかったです。

大人になってからもこんなに新しいことを次々に体験できるなんて。こんなに素晴らしいことがあるでしょうか。冒険だし、旅だし、目眩のするような非日常性そのものも魅力ですが、初めてのことを乗り越えることは何よりの自信になります。自分を信じること以上に大切なことはないでしょう。

はじめての海外登山:役に立った道具・あれば良かったもの

トレッキングシューズ&登山用靴下

装備の中であって良かったと思ったのが登山靴です。

オススメされたAkuのトレッキングシューズ(ゴアテックス)を飛行機から履いていきました。機内は履きやすい靴を履き、登山靴はスーツケースにと思ったのですが、万が一スーツケースが迷子になって登山できない事態になったら大変なので履いて行った方がいいとアドバイスを受けてのことです。実際にスーツケースが行方不明になった話も数例聞いたことがあります。

実際に履いてみて、山登りの経験が浅くても、急勾配や悪路も歩き切ることができました。

登山用の靴下もあって良かったアイテム。その後、重い荷物を背負いランニングシューズと薄い靴下で長時間ハイキングしたところ足の裏の皮が剥けそうになりました。剥けないように庇いながら歩いたら、脛の外側の前脛骨筋が極度に疲労して攣る羽目に。普段攣らない部位だけに辛かったです。

改めて靴下の大事さに思い至りました。

登山用グローブ

登山中、木の枝や蔓につかまることが多く、登山用グローブが必需品でした。枝の棘やカブれ、山ビルから手を守ってくれます。

最終日に野生蘭(コリバス)の観察をするのにグローブをしないで行ったところ、聞いていた以上の険しい道のりでグローブをしないで行ったことを後悔しました。

登山用の水筒(というか十分な水分)

はじめて熱帯雨林の登山を経験して、こんなにも暑く湿度が高いのかと思いました。まるで岩盤浴やミストサウナにいるような室温と湿度。湿った暑い空気が全身にまとわり付き、吸う息も湿っています。汗が滝のように流れ、喉が猛烈に渇きました。

登山に自信がなかったのでなるべく荷物を軽くするため、水を少なめにしたのは不正解もいいところでした。

目的地に着くまであと1kmの地点で水がなくなり、ガイドの橋場さんに分けていただく羽目に。それでも足りずに熱中症になりかけました。

山登りの1kmは平地の1kmとは違い過酷なものですし、大量に汗をかくので脱水症状になりやすいです。水分は絶対に多め!重くて持てなくなれば捨てればいいのだと後で気づきました。

あと、クエン酸と塩タブレットを準備していれば、もっと体が楽だっただろうと思います。

シュラフ

山小屋では、雨が降ったために夜間の気温が10度を下回り、肌寒く、シュラフが活躍しました。

必須ではありませんでしたが、持って行って良かったです。

雨具と防寒具

雨具のレインウェアが防寒着にもなり便利でした。寝る時に羽織って寒さを凌いでいる方もいました。

ヒル忌避剤「ヒル下がりのジョニー」とヒルソックス

マリアウベイスンはヒルだらけ。無数のヒルが腐葉土の地面からチンアナゴのように顔を出し、うねうねと体をくねらせているのが目視できるほどです。

登山途中の平坦な場所に座れば、もれなく体のどこかにヒルがつきます。山にいる間は常にヒル忌避剤を使っていました。

薬の名は「ヒル下がりのジョニー」冗談みたいな名前ですが、効果がありました。

ヒルソックスは登山入り口の麓の売店で購入。靴や靴下の間からヒルが入ってくるのを防いでくれました。

ヘッドランプ

山小屋では夜に消灯になったために、手元のものを見るのにヘッドランプが便利でした。

ジップロックとビニール袋

海外出張によく行く方から「ジップロックが便利」と聞いていました。実際に持っていってやっぱり便利。濡れた服や下着を入れたり、食べかけの食料を入れたり。以降、旅行に行く時は必携です。

ビニール袋は撮影機材を入れるのに使いました。リュックにそのまま入れると水没した時にダメにしてしまうので。

カメラのバッテリー&SDカード

なかなか行けない場所に行き、希少な植物を見る旅です。撮影命、記録大事です。以前、自生地探索中にカメラのバッテリーが切れてしまい、植物の撮影ができないことがありました。こんな事態は絶対に避けたい。また湿度の高い場所で撮影していると消耗も早いです。今回予備のバッテリーを4本持っていきました。

SDカードも多めに用意。

撮影機材はPENTAX K30/OLYMPUS Tough TG-5。

今にして思えば動画をもっと撮れば良かったです。

目覚まし時計

持っていけば良かったものです。

いつもiphoneのアラームを使っているのでこれでいいやと思っていたら、速攻でバッテリーがなくなり。充電をする機会もなく、お借りする羽目に。絶対に持参した方がいいです。

バッテリーチャージャー

山の中は携帯の電源を切るべきですね。バッテリーがなくなるスピードが早かったです。バッテリーチャージャーをお借りして貴重な1回分を分けていただきました。帰ってからすぐに購入しました。

サンダル

山小屋で履くためのサンダルです。荷物を圧縮するために折りたためるマリンブーツを持参。不正解でした。速乾素材でも湿度が高い場所では渇きません。湿った状態が続き、ダニの巣になってしまいました。接触部が刺され、悲惨なことに。

プラスチック製が絶対にいいです。ダニが湧かないので。

はじめての海外登山:予防接種(ワクチン)

今回はワイルドな旅のため、最寄りのトラベルクリニックに予防接種を受けに行きました。

  • 日本脳炎
  • 破傷風
  • A型肝炎

値段にして2万円台でした。高いですが、帰国後、カンボジアのエコツアーに行った方からA型肝炎になって入院した話を聞き、やはりワクチンは大事だと思いました。

髪を短くした

山小屋泊では温水はなく体を洗うのに川の水を使うと聞いていたので乾かしやすく、汚れにくい髪型にと、ショートカットにしました。これは大正解。洗うのに十分な水量はなく、洗髪と乾かすのに時間がかからないショートカットは楽でした。

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