昆虫食の魅力を伝えるイベント「東京虫くいフェスティバルVol.9(虫フェス)」が、7年ぶりに初開催の地にて開催されました。2010年のVol.1から続くこのイベントは、昆虫食に関わる人間が集まり、トークや試食体験を通して昆虫食の魅力を紹介し続けてきたイベントです。私自身、Vol.1に参加して以来、今回は 15年ぶりの参加となりました。
今年のテーマは「ガチ勢最前線」。内山昭一さんをはじめ、国内の昆虫食界を牽引する登壇者が集う中、私は「食虫植物を使った民族料理『ウツボカズラ飯』紀行」をテーマに登壇し、ボルネオでのフィールドワークから得た知見と料理文化についてお話ししました。
会場では多様な昆虫食品や書籍が並ぶ物販も行われ、『ウツボカズラ飯紀行』を含む関連書籍や昆虫食プロダクトが好評を博しました。本記事では、15年ぶりに現地を訪れて感じた変化、登壇内容、他の登壇者のトーク、物販まで、当日の様子を詳細にレポートします。
東京虫くいフェスティバルVol.9(虫フェス)とは
イベントの成り立ちと歴史

虫フェスこと東京虫くいフェスティバルは2010年に「桃園会館」にてスタート。昆虫食の魅力を広めることを目的としたイベントです。内山昭一さん、ムシモアゼルギリコさん、永井尋己さんをはじめ、さまざまな昆虫食愛好家や研究者がゲストに集い、トークや試食体験を通じて普及活動を行ってきました。2017年まで定期的に開催され、コロナ禍もあり中断した期間を経て、2024年に阿佐ヶ谷ロフトAにて復活開催。そして、今年2025年に初開催地に戻っての開催となりました。


今年のテーマ「ガチ勢最前線」

今年のテーマ「ガチ勢最前線」は、まさに昆虫食を長年支えてきた主要メンバーが中心となる構成でした。昆虫食は、一時的なブームとその反動のようにも見えるバッシングという、振れ幅の大きい変遷を経てきました。その波がようやく静まり、コミュニティが本来の姿に戻りつつあるように感じます。
今回登壇した面々は、その浮沈の中でも軸足を変えず、地道に活動を続けてきた人たちです。商業的な熱狂に左右されず、自分の専門と信念を持ち続けてきた“核”の部分が、テーマ名の「ガチ勢」を象徴していました。表層的な盛り上がりが落ち着いた今だからこそ、彼らの蓄積と説得力がより際立っている印象があります。
来場者層の特徴
年齢層は二十代から五十代。男女比率は6:4とやや男性が多いように見受けました。講演の質問への反応もよく、リピーターも多いように感じました。
昆虫食市場における本イベントの位置づけ
第一に、本イベントを見て感じたのは、昆虫食の“食”としての成熟度です。メーカーやレストランの参加によって、かつては実験的だった領域が、確実に「料理」としての完成度を上げています。商品開発や調理技術は洗練され、提供方法も一般の食文化に寄り添う形に進化し、今に至ります。
一方で、数年前に見られたスタートアップの勢いは落ち着きを見せています。ブームの沈静化に伴い、新規参入の企業は減り、会場の雰囲気は初期の昆虫食コミュニティに近い、落ち着きと親密さを取り戻しているように感じました。
そのため、現在の昆虫食シーンには、「ビジネスとして市場を拡大する」というよりも、「昆虫食という文化を未来にどう残していくか」という、より持続的で内発的なモチベーションが残っている印象があります。特に、商業的な熱狂の後に残った“本来の担い手”たちが、静かに、しかし確かな情熱をもってフィールドを支えている、その姿が際立っていました。
今回のテーマ「ウツボカズラ飯紀行」登壇について

登壇に至る経緯
今回の登壇は、Vol.1以来15年ぶりのオファーでした。昆虫食を専門とする登壇者が多い中、私は「食虫植物×食文化」という、やや異なる領域からの参加となり、特殊なポジションでの登壇でした。しかし、初期から関わってきたご縁もあり、喜んで務めさせていただきました。これまでにも昆虫食関連のイベントで不定期に協力しており、その流れの延長線上にある機会だったと感じています。
トーク内容の構成

テーマは、ボルネオのビダユ族が作る伝統料理「ウツボカズラ飯」。17年にわたる試作の過程、レシピの変遷、現地での取材記録について、スライド写真を用いながら紹介しました。講演時間は30分でしたが、結果的に少し時間を超過してしまったのは反省です。
会場の反応
冒頭で「ウツボカズラをご存じですか」と問いかけたところ、ほぼ全員が挙手され、昆虫食だけでなく植物にも高い関心をもつ参加者が多いことがうかがえました。さらに、講演後には「面白かった」「興味深かった」などの声を直接いただき、変わったテーマにもかかわらず、受け止められ方は非常に良かったと感じました。
7名の登壇者が語った昆虫食の現在地
内山昭一さん「はじめよう昆虫食」

講演では、昆虫食の基本的な味わい、伝統料理、創作料理まで、幅広い視点から“入口”としての昆虫食が紹介されました。昆虫食普及の第一人者として長く活動されてきた内山さんは、現在も「はじめよう」という姿勢を崩さず、初学者に向けて敷居を下げ続けています。
何より、長年の活動の中で、専門性が高まるほど抽象的・評論的になりがちなのにもかかわらず、あくまで「基本を伝える」ことに重心を置かれている姿勢が印象的でした。昆虫食を広く社会に届けるためには、この“入口を開き続ける力”こそが不可欠であると再認識させられました。

RIKYUさん「虫って美味しいですか?」
神奈川県藤沢市のレストラン「Bistro RIKYU」のオーナーRIKYUさんのお話でした。今回が初の登壇とのことで講演前に緊張しているとお話しされていましたが、壇上では全く感じさせないお話の様子でした。ここからMCにムシモアゼルギリコさんと永井尋己さんが入りました。
RIKYUさんは、今回多くの昆虫食品の物販をされていて、そのどれもが美味しく、感激しました。

吉田誠さん「生搾り!世界の昆虫食!」

大学の研究で食用昆虫に関わった経歴を持つ吉田誠さん。『世界の虫を食べてみたい』(緑書房)の著者であり、今回の虫フェスで初売りでした。2024年に国内で初めての食用トビイロスズメ生産を開始。2025年には株式会社環虫社を設立。精力的に活動されています。
木谷美咲「ウツボカズラ飯紀行」
前述の通り、食虫植物のウツボカズラを用いた伝統料理「ウツボカズラ飯」について。17年にわたる試作の過程、レシピの変遷、現地での取材記録をスライド写真を用いながら紹介しました。
佐伯真二郎さん「養殖昆虫食の未来」

蟲喰ロトワのお名前でSNSでも人気の佐伯さん。これまでJICAのプロジェクトの一環でラオスの養殖昆虫事業に携わり、2024年からTAKEO株式会社のCSOとして、昆虫食事業の発展を担っています。紹介された開発商品のシルクソースは蚕特有の臭みがなく、驚きの美味しさでした。

ホモサピさん「香水になりそうな昆虫」

生物料理実験などで有名な、人気YouTuberのホモサピさん。以前からチャンネルを楽しく視聴していました。トコジラミがいい香りがする話やカメムシの香りなど。嗅ぐためのサンプルを持参されていて、嗅いだところいい香りで衝撃を受けました。
ハッチー小川さん「スズメバチのリアルトーク」

スズメバチ駆除歴23年のスペシャリスト。「ハチ駆除8940」代表のハッチー小川さん。スズメバチ捕獲のお話でした。ハッチーさんとはこれまでもイベントで数多くご一緒し、お世話になりました。
登壇者全体から見える昆虫食の“現在”
Vol.1の頃は、昆虫食に隣接する周辺分野の活動者も多く見られましたが、今回はテーマに沿って、より「昆虫食」そのものに焦点が当てられていた印象があります。登壇者の専門性は幅広いものの、いずれも昆虫食を中心軸に、味覚、文化、養殖、香り、フィールドワークなど、多角的なアプローチで深めようとする姿勢が共通していました。
その結果、昆虫食が複数の専門領域から継続的に探究される成熟したテーマへと移行しつつあることが、今回強く読み取れました。
会場の熱気と展示の特徴
入場者数の印象
今回の入場者数は50人程度とのこと。開場直後から物販へと流れる方も多く、常時賑わっていました。次に、男女比率は6:4ほど。コアな年齢層は四十、五十代だと思いますが親子連れで参加されていた方もいました。
展示ブースの傾向
吉田誠さん、ハッチー小川さんが昆虫の生体展示を行っていました。

スズメバチの成虫、巣付きの幼虫など。昆虫に興味がある方に楽しい展示だったと思います。
来場者の空気感
壇上から会場を見渡すと、皆さんが真剣に耳を傾けてくださっているのが印象的でした。質問の意図を探るように頷きながら聞く姿や、スライドに視線を集中させる様子から、強い探求心をもった来場者が多かったことが伝わってきました。全体として、知的好奇心を共有する場としての一体感がありました。
虫フェス物販ブース|『ウツボカズラ飯紀行』販売について
ブース配置と導線

今回「作ってBUGBUG」を刊行されている「さすが」さんと、RIKYUさんの間で『ウツボカズラ飯紀行』絵本『食虫植物のわな』の販売をしました。販売ブースは会場後方にあり、会場スペースから入りやすいものの、一定のスペースがあるため、売買しやすい導線になっていました。
物販全体のトレンド

今回のイベントでは昆虫食品と関連書籍が主なラインナップでした。書籍は、佐伯真二郎さんの『続け!おいしい昆虫記』アンソロジー『虫と仕事がしたい!』(河出書房新社)吉田誠さん『世界の虫を食べてみたい』(緑書房)さすがさん『作ってBUGBUG』内山昭一さん『食べられる虫ハンドブック』など。
TAKEOさん、RIKYUさんの昆虫食品が並んでいました。


RIKYUさん:虫入り琥珀糖の琥虫糖

試食したところ、琥虫糖は優しい甘さでした。サクラケムシ入りの桜琥虫糖は、桜の味という凝りようです。
RIKYUさん:虫ケッタサンド〜ハチノコピクルス添え〜

しっかりとしたボリュームのある虫ケッタサンド。豚肉にカメムシとハーブで香り付けしたものをパンにサンドした料理です。

カメムシとハーブのフレーバーが香り高く、豚肉と相性がバッチリでした。マヨネーズと蟻入りのマスタードもプチプチと食感がよく、普通の粒マスタードより美味しく感じました。素晴らしい料理です。
RIKYUさん:ハチノコピクルス

甘さ控えめのさっぱりとしたタイプのピクルスで、虫ケッタサンドの箸休めに最適でした。
TAKEOさん:ホールシルクソースのカナッペ

思わず会場でおかわりしてしまったTAKEOさんのシルクソースのカナッペです。蚕には特有の癖がありますが、独自の製法により、独特の癖を抑えて旨みを残すことに成功したそうです。ニンニクが効いていてとても食べやすいです。
ギリコさん:虫糞茶

ほっと落ち着く虫糞茶。香りが高く、ほんのり甘味も感じます。
『ウツボカズラ飯紀行』販売について
『ウツボカズラ飯紀行』に多くの方が関心を寄せてくださり、虫フェス会場でも想定以上の反応をいただきました。本来は文学フリマ向けに確保していた分を含め、虫フェスと文学フリマの両会場で初刷分がすべて完売となりました。
登壇者・参加者との交流で見えたこと
印象的だった出会い
久しぶりにお会いする方々も多く、皆さんが変わらず活動を続けておられる姿が印象的でした。また、初めてお会いする方ともご挨拶し、交流の機会を持てたことで、新しいご縁も生まれました。
参加者の声
講演後には、『ウツボカズラ飯紀行』に興味を持ってくださった参加者から「面白かった」「興味深かった」といった感想を直接いただきました。非日常的なテーマにも関わらず、真剣に受け止めていただけた手応えがありました。
今後の仕事への意気込み
ここ数年は講演活動の機会が限られていましたが、今回久しぶりに壇上に立ち、参加者の反応を直接受け取ったことで、改めて登壇・発信の重要性を感じました。今後は積極的にイベントに参加し、お話しする機会を増やしていきたいと考えています。また、自主企画によるイベントも視野に入れています。
東京虫くいフェスティバルVol.9から読み解く昆虫食の未来
見えてきたトレンド
昆虫食は、一過性の話題性とバッシングを超え、より専門性を帯びた“食文化”として深化していく段階に入っているように感じます。登壇内容の幅やアプローチの多様さからも、その成熟がうかがえます。
今後の課題
一方で、過去のブームとその反動によって、安全性や倫理面に不安を抱く声が一部に残っていることも事実です。正確な情報発信と継続的な啓蒙によって、こうした懸念を少しずつ払拭していく必要があります。
植物×食文化の観点から
これまでも、ウツボカズラ飯と昆虫食の要素を掛け合わせた創作料理を試みてきました。今後、こうした植物と昆虫食を横断するアプローチは、コミュニティ内でも新たな視点として活かせると考えています。
今後の活動予定と関連記事
『ウツボカズラ飯紀行』増刷について
初刷完売につき、現在増刷を進めています。準備が整い次第、BOOTHにて通販を開始する予定です(告知はXおよび当ブログで行います)。





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