【食虫植物】マリアウベイスン探訪記⑧下山

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ネペンテスキャンプの朝は晴れて

目を覚ますと雨が上がっていました。しかし、明け方まで雨が降り続け、山道は相当ぬかるんでいることでしょう。

いよいよこの地を去る日。素晴らしいNepenthes veitchii の群落地ともお別れです。名残惜しい。もっとここにいたい。そんな思いで心が千切れそうでしたが、後ろ髪を引かれる思いで、朝食の席につきました。今日も豪勢な食事で、ネペンテスキャンプにいる間の食事を作ってくれた少女料理人に感謝しました。

少女料理人の悲鳴

ネペンテスキャンプでの食事を振り返り

1日目の夕食。優しい味付けで野菜、果物たっぷり
2日目の朝食。朝のゆで卵は嬉しい

私は1日の食事の中で朝食が一番好きです。

なんといっても、睡眠によって気力体力が回復し、最も元気な状態で取る食事です。それに朝食を取っていると、今日1日が素晴らしいものになるように思えてきます。

登りの時の失敗を反省し、水を十分に持ちました。アウトドア用の水筒に雨水を沸かした水を詰めて出発です。

下山:ネペンテスキャンプ→アガチスキャンプ

下山は登りよりも更に過酷でした。

4箇所ある長い金梯子。不安定な吊り橋。これらのポイントは行きで慣れたために、行けはしましたが、2度目で感覚に余裕がある分恐怖を感じました。

難しい場所を助けていただき、降り方を教わりながら下山しました。

道がぬかるんでいることに加え、登りでは踏み込めた腐葉土が滑りやすくなっていました。メンバーで転んでしまう方もいて、下りの難しさを感じます。

ミスターロングカメラの感激

途中珍しいフクロウがいて、野鳥愛好家の方が夢中で撮っていました。Wさんという方、70代で若い頃から登山で身体を鍛え、20代から体重が変わっていないのだそう。望遠レンズのカメラを携えて身軽に飛び回る姿は兵士のよう。現地のレンジャーたちから畏敬の念をこめて「ミスターロングカメラ」と呼ばれていました。

Wさんのカメラを撮影させてもらった。スタディーセンターでの朝食とともに

Wさん曰く、「長年見たいと思い続けた鳥が目の前にいると感激と高揚で手が震えて、シャッターを押せない」

それを聞き、そこまでの熱狂をもたらす野鳥と人の心について考えました。私もヴィーチの森で感激しましたが、植物は静かに佇んでいるので、震えても落ち着く余裕がある。鳥よりも瞬発力が要らない点では撮りやすいです。

奥深き鳥マニアの世界。ライファーとは

今回のツアーは、動物生態学者安間繁樹先生のガイドで、植物マニア、虫マニア、鳥マニアが集まっていました。(両方のマニアの人もいる)

鳥マニアの世界では何種類の鳥を見たか、その数によって優劣がつくことがあるらしく。いわゆる趣味の世界でコレクション数を競うことと同じかと。それをライファー数というのだそうです。ライファーとは、その人が初めて見た鳥のことです。このライファーという言葉、旅の途中に虫マニアのMさんから教えていただきました。

ライファー(Lifer)、命(Life)のコレクションのようで、コレクターの業や怖さも感じる言葉です。

今回の旅でWさんのライファーは増えたのでしょうか。

行きで見たNepenthes reinwardtiana の場所で休憩し、キノコも観察しつつ、6時間かけてアガチスキャンプに戻ってきました。

ようこそ、私が川の河童です

現地ガイドのゲイリーさんの靴が壊れる事態が発生。過酷な下山でした。

お迎えの車が来るまでアガチスキャンプでしばしの休憩。童心に返り荷物計量用の秤にぶら下がって遊ぶレンジャーたち。仕事の後の解放感を見ていて感じました。

安間先生は汗を流したいと川に入りに行き、私たちも続きました。

マリアウベイスン内の川はタンニンを豊富に含んだミルクティー色。先生は山小屋のトイレに裸足で入られたり、川へ入浴に行かれたり。この地での研究生活の長さゆえか、この地に馴染まれているのでした。

この時も下着姿で悠々と泳がれていて、登山靴を洗うだけに留めている私たちに「ようこそ、私が川の河童です」と冗談を言われました。

再びスタディーセンター